ひと釜、だめにした朝
早瀬入社して2週間目の朝、加水の量をまちがえて、生地をひと釜だめにしてしまったんです。ミキサーを止めた瞬間、手がふるえていました。
早瀬怒られると思ったら、課長が「なんで多くなったか、一緒に見よう」って言って、計量の記録を1行ずつ見てくれて。
稲葉怒っても粉はもどらないからね。原因が分かれば、次のひと釜は大丈夫。それにあの日は、湿度がすごく高かった。早瀬さんだけのせいじゃないんだよ。
「寝かせる時間でいい」の意味
早瀬そのあとに言われたのが「最初の1年は、寝かせる時間でいい」でした。正直、そのときは意味がよく分からなくて。
稲葉生地って、こねたあとに寝かせるでしょう。寝かせている間は何も起きていないように見えるけど、中では水が粉のすみずみまで回って、ちゃんとのびる生地になっていく。人も同じだと思っていてね。
早瀬いまなら分かります。1年目は覚えることばかりで、できるようになった実感がなかったんです。でも2年目の春、気づいたら手が先に動いていました。
はじめて任された仕込み
稲葉去年の暮れ、年越しそばの仕込みを早瀬さんに任せたんだよね。
早瀬一年でいちばん忙しい時期に、ですよ! 前の晩はあまり眠れませんでした。
稲葉でも、あとで記録を見たら完ぺきだった。粉の温度、水の温度、こね時間。ぜんぶ自分のノートに書いてあったから、迷わなかったんだと思う。
早瀬ふりかえりノートのおかげです。毎日3行だけ書いて、課長が赤ペンでひと言返してくれる。あれが続いたから、自分の「いつもの手順」ができたんだと思います。
これからの、のびしろ
稲葉早瀬さんにはいつか、新しい麺をひとつつくってほしいと思ってる。
早瀬じつはもう、試食会に出したい案があるんです。地元の小麦で打つ、少しだけ太い中華麺。
※対談の内容・人物は架空のサンプルです。