Project Story 01
LNG二元燃料ばら積み船1番船 建造プロジェクト


燃料の費用と排出ガスの規制は、海運会社にとって年々重くなっていた。そんな中、長く取引のある国内の海運会社から相談が届く。「次のばら積み船は、LNGでも走れる船にしたい」。重油とLNGの両方を燃料に使える二元燃料の船は、澪重工にとって初めての挑戦だった。LNGはマイナス162度でようやく液体になる。その冷たい燃料をどこに積み、どうやってエンジンまで運ぶのか。船の形そのものを考え直すプロジェクトが、ある年の春に始まった。
※登場する会社・人物・出来事はすべて架空です。
重油とLNGなど、2種類の燃料を切り替えて使えるエンジンと燃料の仕組み。LNGを使うと、重油に比べてCO2や硫黄酸化物の排出を減らせる。LNGを補給できる港はまだ限られるため、どちらの燃料でも走れることが船主にとっての安心になる。

商船設計部 基本設計グループ長
2008年入社/工学部 船舶海洋工学科卒

設計本部 船殻設計
2023年入社/工学部 船舶海洋工学科卒

汐見工場 船殻工作部 溶接課
2015年入社/工学部 材料工学科卒

艤装部 機関艤装課
2013年入社/工学部 機械工学科卒
最初の壁は置き場所だった。LNGは同じ熱量の重油に比べて、およそ2倍の体積が要る。タンクを大きくすれば、そのぶん荷物を積む船倉が狭くなる。船主の答えははっきりしていた。「積める量は、いまの船と同じにしてほしい」。基本設計の船越は、タンクを船倉の間に埋め込む案、機関室の近くに置く案など、10を超える配置を比べた。荷物を満載したときの船の傾き、波を受けたときの揺れ、点検のしやすさ。どの案にも弱点があった。最後に選んだのは、居住区の前の甲板に、円筒形のタンクを横に寝かせて置く形だった。積める量を減らさず、万一ガスが漏れても人のいる場所から遠ざけられる。図面の上で何十回も線を引き直した末の答えだった。
タンクを支える台座のまわりは、船体の中でも特に大きな力がかかる場所になる。この部分の船殻設計を任されたのが、入社1年目の岬だった。重さ数百トンのタンクが、波で揺れるたびに船体を押し、引く。その力を甲板の下の骨組みにどう逃がすか。岬は先輩の計算を何度も見直しながら、補強材の位置と鉄板の厚さを決めていった。「自分の線一本で、船の強さが変わる。最初は図面を出すのが怖かったです」。
LNGが通るタンクや配管には、ふつうの鉄ではなく、低温でももろくならない特殊な鋼材を使う。汐見工場でこの鋼材を本格的に扱うのは初めてだった。溶接の熱の入れ方を少し誤るだけで、継ぎ目が低温で割れやすくなる。船殻工作部の帆足は、試験用の板を何十枚も溶接しては切断し、継ぎ目の断面を調べた。電流の強さ、溶接棒を動かす速さ、一層ごとに冷ます時間。条件を一つずつ変えて、合格できる手順を探していった。
手順が決まっても、それを守るのは何十人もの溶接士だ。帆足は、数字だけが並んだ手順書を、現場で迷わないように写真入りで書き直した。ベテランの溶接士から「この順番だと手が届かない」と言われれば、試験をやり直す。「教える立場だったはずが、毎日教わっていました」と帆足は笑う。
タンクのLNGを温めて気体に戻し、船尾のエンジンまで送る。その燃料ガスの配管の設計と取り付けを担当したのが、機関艤装の舵本だ。ガスの配管は、万一漏れても人のいる区画に流れ込まないよう、二重の管にして専用の通り道を通す。限られた船内の空間で、ほかの配管や電線とぶつからない経路を、3Dの模型の上で一本ずつ探した。
配管の取り付けが終わると、検査機関の検査員と一緒に、継ぎ目を一つずつ確かめる。その数はおよそ600か所。圧力をかけて漏れがないかを調べ、記録を残す。1か所でも基準に届かなければ、切ってつなぎ直す。舵本は毎日、検査員より早く船に入り、その日に見る継ぎ目を自分の目で確かめてから検査に臨んだ。
進水から半年後、船は汐見の沖で試運転に出た。重油からLNGへ、エンジンの燃料を切り替える。機関室のモニターの前には、船越と舵本、エンジンメーカーの技術者が並んだ。回転数は落ちず、船はそのまま速力を保った。「計算どおりなのはわかっていても、数字が動いた瞬間は声が出ました」と船越は振り返る。
引き渡しの日、船主の担当者は甲板のタンクを見上げて「この形にしてよかった」と言った。1番船でつまずいた所は、すべて記録に残してある。いまチームは、同じ船主から注文を受けた2番船の設計に取りかかっている。岬が引く線は、1年目より少しだけ迷いが減った。
船の燃料が変われば、船の形も、工場の手順も変わる。その変わり目に立ち会える仕事が、澪重工にはある。